活字録


いまをときめく小泉悠さん。すっとぼけたツイートがあまりに面白くてご本買ってしまった。
これはご自身のモスクワ在住体験を元にごくわかりやすくロシアの街や人について書かれたものなので、さらっと読める。
他の世界の国々同様、へえそうなんだ、とか、面白そうだな美味しそうだなとか、いつか行ってみたいなあ(遠い目)とか、
ついこないだまでロシアもそういう国のひとつだったはずなのにね。
いま、むしろロシアについてもっといろいろ知りたい。

ベンガルをルーツに持つジュンパ・ラヒリさんの長編。
奇をてらうことなく、淡々と流れる文体が好き。
それでいて胸を刺す起伏に満ちたストーリーと、
あちこちに散りばめられた小さいけどよく光る星のような表現が好き。
幾重にも織られた質の良い織物みたいだなあといつも思う。

「誘拐」「不当逮捕」「疵」等々、丹念な取材、硬質で、でも懐の深いノンフィクションの名作をたくさん残し、
酒と競馬が好きで人情に厚く、多くの仕事仲間に愛された本田靖春さんを、同業者でありフォロワーのひとり後藤正治さんが愛情と尊敬を込めてまとめあげた評伝。
短い間だったけれど、本田さんが向田邦子さんと交流があったことを知る。
仕事に対して頑固で反骨の人だった本田さんに、向田さんはこんなお説教をしたそうだ。

「あなたそのまま行くと、ただの拗ね者(すねもの)になりますよ。あれがいけない、これがいやだなんていわず、いまは黙ってどんどん書きなさい。そういうことだって大切なんですよ。いいですか。ここで約束をなさい」

身に滲みた、そうだ。
どんどん書いて、パッと散ってしまった向田さん。
身に滲みる。

おまけ。書物ではなく映画だけど。
「アネット」観て、アダム・ドライバーがあまりに良かったので、
アマプラにあった「ハングリー・ハーツ」という作品を全く予備知識なしで観た。
2016年公開。シンプルなラブストーリーかと思いきや。びっくり。
信じるということは狂気と紙一重だということ。
愛の名の下に常識も法律も無力だということ。なんという恐怖。
これは、いま、このご時世だから、観るべき、かもよ。
キイワードは「最終的には、ばあば、すげえ」です。気が向いたらぜひ。