アマプラにて、2021年公開、西川美和監督の「すばらしき世界」。良い作品でした。ほとんど邦画は観ないんだけど、食わず嫌いはいかんな。すごく泣いてしまった。観終わって何日も何日も経ってるのに、気がつくと思い出して、考えてしまう、そんな映画でした。
原案となったのは実在の人物を描いた佐木隆三さんのノンフィクション「身分帳」。長い服役から出所した元ヤクザと、その更生に手を貸すひとたちの物語。「復讐するは我にあり」「海燕ジョーの奇跡」「ドキュメント狭山事件」佐木さんの本は若い頃たくさん読んだけど、これは知らなかった。1990年の作。絶版だったのが映画をきっかけに再版されたとのこと。
セリフを読んでいる、ではなく、自分の言葉でしゃべっている、と感じさせるのは、役者さんたちの力量はもちろん、西川監督の脚本の力だなあと思う。登場した誰もが、あの物語を生きていた。
役所広司さん演じる主人公がヤクザ時代の兄貴分(白竜めっちゃよかった)に会いに福岡に行き、いろいろあっての帰り際、きっぷのいい兄貴分の嫁(キムラ緑子さん、カッコいい姐さんでした)が言う。
「シャバは我慢の連続。そのわりにたいして面白うもなか。やけど、空が広いち言いますよ」
「すばらしき世界」、英題は「Under the open sky」。このセリフから付けられたそうだ。地面に一番近い場所から見る空は、たしかに、openだろう。いまどき、配信で世界のどこからでも観られるもんね。「広いち」。言語が違っても、この九州弁の色っぽさと迫力が伝わるかなあ、伝わってほしいなあ。
0と1の間にある、数え切れない人生。どちらかに振れてしまえれば楽だけどそんなに簡単じゃなくて、1990年に書かれたはみだし者の生きづらさは、そのまま、2024年の生きづらさでもある。たとえば音楽なら、ドとレの間は実はとても広くて、その広さをいちばん自由に表現したのはジャズかな、と思う。ヤクザの姐さんのセリフにも通じる、解放へのあこがれを湛えた音楽。じゃあ、逆はなんだろう、と考える。ドとレを厳密に区切り、アドリブを許さず、ハーモニーではなくユニゾン。
それは、軍歌だ。