私の「place」 という歌の歌詞が、ほとんど丸ごと使われている歌があり、全く知らない他人名義で歌われ、CDまで出ているらしい、という、ファンの方からのメールが届いたのは、7月半ばのことでした。
最初、ちょっと笑いました。なんじゃ、そりゃ。あまりにも思いがけないことで、それはやっぱり私が注意しないといけないのかしら、とか、ぼんやりと、呑気でした。
調べてみると、メロディは付け替えられていましたが、歌詞は確かに私の歌詞でした。ごく細かい部分(いつでも→いつも、のような)、くり返しの仕方など違っているところもありましたが、基本的にはほぼ丸写し。詞は夫、曲は妻、ご夫婦での共作、ということになっており、歌っているのは奥さんで、タイトルも変わっていました。
知らせてくださったファンの方からの続報もあり、さらに調べて行くと、その歌が、夫妻の自主レーベルから2013年1月に正式にリリースされ、Amazon、HMVなどで普通に取り扱われていることがわかりました。1年半も前か!と、ちょっと衝撃を受けつつ、ああこれはまずい、と思い始めたのはこのあたりからです。
さらに、この歌があるコンテストで第2位を受賞したとか、テレビ番組のエンディングテーマになっていたとか、地元の新聞に取り上げられ、記事になり、そこに歌詞の一部も掲載されているとか知るに至って、私は再び笑ってしまいました。なんじゃ、そりゃ。
問い合わせがあったようで、新聞社の方からはすぐにとてもていねいなメールとお電話もいただき、謝罪とともに、明らかに盗用の疑義あり、事実であれば責任を持って訂正記事を出します、とおっしゃっていただきました。とりあえず相手の方とお話をして、ちゃんとまとまるまで待ってくださいと、お願いしました。
新聞社から連絡を受けたご夫婦の奥さんの方からも、すぐにメールでご連絡いただきました。インターネットで調べて、「place」と自分たちの歌の歌詞が全く一緒でほんとうに驚いたということ、ご主人が書いたものと信じ、2001年の7月に曲をつけずっと歌ってきたということ、当時ご主人のご病気もあり、ご夫婦ともにほんとうに大変な状況にあったことなどご説明くださり、私とファンの皆さんにほんとうに申し訳ないことをしてしまい、どうしたらいいでしょうとうろたえるようにおっしゃっていました。
「place」は、2001年2月24日リリースの「新しい羽根がついた日」というアルバムに収録されています。これは私がメジャーを離れて、インディペンデンスで初めて作ったアルバムです。
ひそかなざわめきのようにファンの人たちにもこの件が知れ始め、嫌な騒がしさになってきたので、とりあえずいまは静観してください、とツイッターでお願いしました。そして、家族や「place」を制作した当時のスタッフと相談し、著作権法違反については、レーベル・出版社に対応していただくこととし、篠原美也子としては、ひとつ提案をすることにしました。
その提案は、あらためて正式に歌詞を提供するので、クレジットをちゃんと直してジャケットだけ印刷し直して、タイトルもそのままで、これからも歌いませんか、というものでした。
長いこと歌を書いてきて、それは私自身の物語を歌にしてきたわけですが、必ずしも私自身の物語として伝わる必要はなく、届いた先々でそのひとの物語になってくれたらいちばんいい、と、ずっと思ってきました。13年前、体も心も弱っていた中で「place」という歌を聴いたご主人は、そこに自分の物語を見つけ、どこかで境界線がぼやけてしまったのでしょう。起こってしまったことは残念ですが、そのように歌が伝わるということは、それはそれで、幸せなことなのかもしれないと思いました。
同じように、夫妻の「物語」を通じてその歌に出会い、共感し感動してくださった方々の気持ちも、嘘ではない、と思っています。あちこちで、私の歌詞が大変ほめられているのを目にして、ものすごくフクザツな気持ちでしたが、うれしかったです(笑)。間違いは正さなければならないけれど、そこで生まれた気持ちまで正す必要はない、と考えました。いつだって、音楽に罪はありません。
だから、これからも歌いませんか、と提案をしました。二度と歌わないことで謝罪に代えたい、と辞退されたので実現しませんでしたが、私はいまでも、この作戦、結構面白かったのにな、なんて思っています。
メールでのやりとりを通じて、ご夫婦からは幾度となく謝罪の言葉をいただきました。でも、今回の件は偶然気づいたファンの方がお知らせくださったことで発覚したことでもあり、謝罪を受けるべきは歌に気持ちを重ねてくださったファンの皆さんであるので、私個人ではなく、お互いのファンの方々に向けて、ご自分の言葉で真摯に説明してくださいとお願いしました。
まずは盗用の事実をはっきり認めてくださったことに感謝します。これは、今回の件でご心配をおかけした私のファンの人たちのためでもあり、私の名誉を回復するという意味に於いても重要なことです。ここに奥さんの言葉はありませんが、音楽家としての気持ちと、家族を思う気持ちの間で、さぞかしご苦労があったことと思います。勇気を持って行動してくださったことに感謝します。
カッコつける気も、いい人ぶる気もありませんが、騒ぎ立てたところで誰も幸せにならないと思ったので、牛歩戦術的に地道な話し合いを重ね、ここまでたどり着きました。なるべくそうならないように、と願っていましたが、やはり誰もが多かれ少なかれ傷つきました。言いわけじみてしまいますが、その点だけは、どうかわかっていただきたいと思っています。
最後に、この件で篠原美也子をご心配くださった方々に、あらためて心からお詫びするとともに、信じて、見守ってくださったこと、感謝します。ありがとう。去年20周年を迎えて、もうたいていのことは経験済み、と高をくくってましたが、まだまだ甘かった、と反省中です(笑)。
というわけで、この話はここまで。
後編に続く。
追記9/21:先方のコメントにつきましては、皆さんに伝わったと判断しましたので、こちらからお願いして削除していただきました。